「もしかして、自分はスマホ依存なのかな……?」
ベッドの中で画面を見つめながら、そんな不安がふと頭をよぎったことはありませんか?
そう思いながらも、気づけば無意識にスマホに手が伸びてしまう。そして、寝る時間が遅くなってしまったり、寝入るのに時間がかかってしまったりする自分に対して、「なんて意志が弱いんだろう」と小さな罪悪感を抱いてしまう……。
もしあなたがそんなループの中にいるとしても、まずは自分を責めるのをやめてください。実は、あなたがスマホを手放せないのは、あなたの意志が弱いからではないのです。
今回は現代のスマホ依存について深く知っていくために、心理学の専門家である京都橘大学の岸太一准教授に、詳しくお話を伺いました。
スマホは「楽しい場所」ではなく「逃げ場所」だった

そもそも、スマホ依存とはどのような状態を指すのでしょうか。岸教授は、その正体をこう定義します。
「スマートフォンの使用を続けることで昼夜逆転したり、成績が著しく下がったりするなど、さまざまな問題が起きているにも関わらず、使用がやめられず、スマートフォンが使用できない状況が続くと、イライラし落ち着かなくなるなど精神的に依存してしまう状態」
生活が乱れ、やるべきことが手に付かなくなっている。そんな状況を自分でも分かっているのに、なぜ手放すことができないのでしょうか?
その裏側にある依存(アディクション)の本質について、岸教授はこのような指摘をされています。
「アディクションは、嫌な状態から逃れるために依存対象の方向に向かうという特徴があります。なので、スマホ依存の人がスマホを見ていてものすごく楽しいかというと、意外とそうでもないんですね」
私たちは、最新の動画やSNSの投稿が「楽しいから」見続けていると思いがちです。しかし、実はそうではないのかもしれません。
日々のストレスや不安、あるいは「何もしない時間」の所在なさといった、今ここにある「嫌な状態」から一時的に意識を逸らすための手段として、スマホを手に取っているに過ぎないのです。
なぜ「スマホをやめる」だけでは上手くいかないのか?

とはいえスマホを無理やり「禁止」しようとすると、心は行き場を失ってしまいます。岸教授は、禁煙を例にそのメカニズムを非常に分かりやすく教えてくださいました。
「禁煙すると太ると言われるのは、口への刺激がなくなることが関係しています。誰からも指摘されない、気軽に口に入れられる『飴』などを代わりに口にすることで、結果的に糖分を摂りすぎてしまうのです」
これはスマホも同じです。スマホという刺激を急に奪われると、私たちの脳は「口寂しい」ような、手持ち無沙汰な感覚に陥ります。その「空白」に耐えられなくなったとき、脳はまた一番手近な刺激であるスマホへと戻ってしまうのです。
「自由な1時間」が「苦痛な時間」に変わる時
もう一つ、興味深いエピソードがあります。タバコを辞めると、それまで喫煙に使っていた時間が浮き、1日の中で「自由な1時間」が生まれます。
「非喫煙者ならその1時間を有効活用できますが、喫煙者だった人からすると、その時間はただ『働かされている時間が長くなった』という感覚に陥ることがあります。依存対象から離れたときに、その時間をどう過ごすかイメージできていなければ、何もしない時間は苦痛に変わってしまうのです」
スマホを置いた後の夜のひととき。 もし、その時間をどう過ごすか決めていなければ、それは「自由で豊かな時間」ではなく、ただスマホを我慢させられているだけの「苦痛な空白」になってしまいます。
脳にとって、何もしない空白が「苦痛」であるならば、そこから逃れるためにまたスマホに手を伸ばすのは、ある意味で自然な防衛反応なのです。
だからこそ、依存から抜け出す本当の鍵は、スマホをただ「やめる」ことではありません。スマホを置いた後の「手持ち無沙汰な時間」を、いかに心地よくデザインするか。 その準備こそが大切なのです。
「スマホを寝室に持ち込まない」という、小さな文化をつくる

では、具体的にどうすればいいのでしょうか。 教授は、アディクション(依存)の解消や予防に繋がる、あるシンプルな「習慣」を提案されています。
「不眠症で悩まされる多くの人は、寝るための準備がバラバラであるケースが多いです。寝る前のルーティンとして、スマホを寝室に持ち込まないなど、できることは依存の解消につながると思います」
無理にスマホを遠ざけようとすると、脳は「拒絶」を感じてしまいます。 そうではなく、「ここからはスマホを使わない時間」という心の区切り(境界線)を、日常生活の中に優しく溶け込ませていくのです。
例えば、こんな小さな「置き換え」から始めてみてはいかがでしょうか。
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スマホのアラームではなく、目覚まし時計で起きる スマホをアラーム代わりにしていると、止めた瞬間にメールやSNSをチェックする誘惑に勝てません。目覚まし時計を置くことで、寝室を「情報から切り離された聖域」に変えることができます。
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「何もしない時間」を「リフレッシュする時間」へ スマホを使わない時間は、我慢する時間ではありません。お気に入りの本を開いたり、好きな音楽を聞いたり、温かい飲み物を楽しんだり。依存対象から離れたときに、何か一つでも「心が安らぐこと」があれば、手持ち無沙汰な苦痛は、次第に心地よい静寂へと変わっていきます。
「ハームリダクション」の考え方

現代社会において、スマホを人生から完全に切り離すことは、現実的な選択ではありません。仕事でもプライベートでも、スマホはもはや生活の一部だからです。
そこで岸教授が紹介してくださったのが、近年のアディクション対策として注目されている「ハームリダクション」という考え方です。
「例えば、お酒なら禁酒をするということではなくて、飲酒によって生じる害(ハーム)を減らそうというものです。スマホを全く使わないということが現実的な選択ではないことを考えると、ハームリダクションの考えに基づいた関わりが大事になってくるかもしれません」
「1分でも触ったらダメ」という100点か0点かのルールは、私たちの心をかえって追い詰めてしまいます。そうではなく、スマホを使いながらも、それによって生じる生活の乱れや健康への害を少しずつ減らしていく。 これがハームリダクションの本質です。
「オフ」の質が、スマホ依存の害を小さくする

教授との対談で見えてきたのは、スマホ依存から抜け出すには、スマホを触っていない「オフの状態」の質を上げることが大切だということです。
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「夜はスマホを触らない」ではなく、「夜は別の楽しみを優先する」
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「スマホを見ながら寝ない」代わりに、「心地よい光や香りに包まれて眠る」
スマホを強制的に排除するのではなく、スマホ以外の「心地よい選択肢」を自分に与えてあげること。その結果として、自然とスマホに触れる時間が減り、生活の質が上がっていく。
「今日もまた寝る前にスマホを見てしまった」と自分を責める必要はありません。昨日の自分よりも、ほんの少しだけ「オフの時間」を慈しむことができたなら、それは立派なハームリダクションの第一歩なのです。